「美しい洋服」とはどのような洋服を指すのだろう? 生地の美しさ? ディティールの美しさ? デザイン? 人はスーツを着るとき、実にさまざまに動くものだ。座る、立ち上がる、手を伸ばす、、、そして時にはDANCEだって踊る。それらの動作/活動をするときに、着ている洋服がスムーズな動きを妨げてはいけない。着ていて疲れる洋服だったらお気に入りの1着には成り得ないだろう。“素敵な人”という印象を与える人物は、彼の動作も美しくはないだろうか。優雅な身のこなし、颯爽と歩く姿、そんな彼の立ち居振る舞いを遮ることなく、彼の肩に、腕の動きに、足さばきにふわりと、寄り添うように付いて行く洋服、それこそが美しい洋服である。腕を伸ばしたとき、莖口からシャツのカフが丸見えでは“素敵な人”とは言ってもらえないだろう。そして着る者の動きによって生じる服地のドレープ、陰影、それらが動作の美しさを際立たせる効果を持つものだ。
「動きやすい洋服」をつくるということは、即ち着る者の身体に合った洋服を仕立てるということである。つまり、その人の体型や姿勢といった特徴に合わせ全体のバランスが良い洋服をつくるのである。それは、人間の体という複雑な構成の立体が纏うために、平面である服地から立体的なフォルムを形成する技術を駆使した作業によって完成される。
私たちのアトリエがつねに追及するのは、美しく動きやすい洋服をつくることである。美しさを保つフォルムを形成するためには手間も時間も惜しむことなどない。視覚に訴える記号的なディティールよりもむしろ、立体的なフォルムをつくるため、いわば内側の部分(例えば芯地やパットといった副素材の使い方、表地とのあわせ方)をこそ研究し、工夫を重ねる。完成した洋服の美しさの土台には、何を如何にすれば美しさ、快適さが実現できるかという職人の探求心がある、と言っても過言ではない。同時にそれは佐藤英明という一人のアルチザン(職人)がイタリア、フランスで培った「美意識」である。